2011年9月26日月曜日

【リーガ】 "挑戦を受けたバルサ3-4-3"


ヴァレンシア VS バルセロナ
2  - 2



概要
ここまで例年稀に見る勢いで敵を撃破してきたバルセロナ。
その躍進の原動力となっているのが今シーズンからの新フォーメーションである。
しかし、バレンシアの若き指揮官とピッチ上の11人は、
目まぐるしいポジションチェンジで相手に的を絞らせないこの布陣の前に
混乱の中なすすべなくやられてきた他チームとは対照的に、
ディフェンスの"穴"を効果的に突くカウンターサッカーでバルササッカーと堂々対峙。
最終的には、試合開始から続けてきたハイプレスが弱まる76分に同点弾を許したが、
それでもバレンシアの挑戦はバルサの絶対的地位を揺るがすことに成功したと言えよう。




ホーム・バレンシア。システムとしては、オーソドックスな見方をするならば4-2-3-1で、シャドーストライカーを配置したフォーメーションと言えるが、今回のバレンシアはカウンターサッカーに特化するために、壁を作っていた印象があるので、そういった意味では4-4-1-1という変則的なフォーメーションと捉えるのが良いかもしれません。







対してアウェー・バルセロナ。2011-2012シーズンからおおっぴらに使い始めた3-4-3を今回も使用。今節に限らず、このフォーメーションを用いる上で目を引くのが、本職サイドバックのアウヴェスをウイングとして使用することが多いこと。また、フォーメーション図では把握しづらいが、メッシとセスクは実質的にフリーマンで、メッシが引いて組み立てた場合などには、セスクは常に裏を狙っています(その逆もまた然り)。つまり、2010-2011シーズンでは専らメッシが引いてきて組み立てに参加し、メッシが下がったことで空いたスペースにペドロが走りこむ、というパターンが多かったのですが、そのようなメッシの役割を今年からはセスクと分担し、かつ入れ替わり立ち替わり行なっている、というのが特徴だと言えるでしょう。



■試合開始10分過ぎ。突然試合が動く。
この試合、すでに何度か言及しましたが、バレンシアは素晴らしく統制されていた、としか言いようがありません。彼らはまるで針のように鋭かった。その"針"はバルサの3枚のディフェンスの僅かな間隙を常に狙っていたし、またそのチャンスと見るやいなや凄まじい勢いでそこに襲いかかっていました。そして、そんな彼らの試みは、最初の機会にして成功の目を見ることとなります。試合開始10分すぎ、アビダルのオウンゴールのシーン。

一点目のシーン・その1
バルサDF陣がボールをもった時に、プレッシャーをかけつつパスコースを裁断することでパスミスを誘発する。これが功を奏してバイタルエリア(相手DFラインとMFの間に出来る空白地帯)でのボール奪取に成功。この後、プジョルはボール保持者に対してすかさずプレッシャーをかけにいく。しかし、そこをバレンシアは狙っていた。バイタルで奪われた危機感から、相手にすぐさま飛びつくことで、DFの横の関係に穴が生まれてしまう。また、プジョルだけでなく、(おそらく)シャビ、セスクと3人もがボールに集まってしまい、数的同位が崩れる。



一点目のシーン・その2
これにより、上図その1ではバレンシアとバルセロナは数的同位であったのに対し、左図その2でもお分かりのとおり、3人がボールに集まってしまったため、その裏ではバレンシアが数的優位をつくりだしている。バイタルで味方がボールを持つと、3人を引きつける一方で、しっかり味方の飛び出しを確認している。このチャンスに、今できた、いや、むしろ「作り出した」、というべき相手DF陣同士の"間"に他の選手は猛烈に走りこんでいる。この図では確認できないが、この後、バレンシアの最も左に開いた選手にボールが入り、4対3という数的優位をもって、先制点のシーンに繋がっていく。これらは、4バックよりもDF同士の距離が大きく開くという3バックの弱点をよく見越したプレーで、しかもそれをチーム全体でよく意思統一されているということがよくわかる瞬間だった。無駄がなく、役割がしっかり分担とされていて、何よりも狙いが明確に共有されている。バレンシアの監督、ウナイ・エメリという男。この名前は覚えておいて損は無いだろう、と確信した瞬間だった。



■しかし、すぐさま同点に追いつくバルセロナ
※画像と本文は関係ありません
バルセロナの攻撃力の肝は、山本昌邦氏もかつて解説で言及していた(外部リンク)ように思いますが、「トライアングルの形成」にあると私は考えています。かならずボール保持者を頂点とする三角形が形成されるように各自ポジショニングすることで、ぐるぐるとボールを回し続ける。このトライアングルの参加者が入れ替わり立ち替わりすることが、相手を翻弄するようなバルセロナのパスサッカーの核心です。また、ボール付近ではそのようにぐるぐると参加者を変えながらトライアングルが形成されていますが、トライアングルに参加していない選手の動きも、前述のそれと同じく一つの核心だというべきでしょう。囮の動き、スペースを開ける動きと、そこに走りこむ動き、そしてまた出来たスペースに走りこむ動き・・・という動的な流れが、ボールの無いところで行われています。これら2つの核心を裏付けるのが、0-1から1-1へと同点弾が決まった際の動き。キャプチャは割愛しますが、セスクとケイタの2選手に注目していただくと、よくわかるのではないかと思います。セスクがメッシを追い越してバイタルに→またケイタはそのセスクに釣られた相手DFの懐に飛び込み→そしてケイタが元いたバイタル手前付近のスペースでペドロが、シャビからのロングボール受け→その後ペドロがセスクを経由して、流れのなかで全くボールに絡んでいなかったメッシに収め→そのメッシが、先ほど侵入したケイタが作る壁に守られながらバイタルからドリブルを仕掛けることで相手を釣りだし→その釣りだした背後にペドロが飛び込みシュート、という流れが確認いただけるでしょう。




■だがしかし、またその10分後、バレンシアの"半端ない"カウンター炸裂
同日、「半端ない」彼もU-22で頑張っていました。
しかし、バルサとしてはまだ油断できません。スコアこそイーブンでにしたものの、なんといっても「崩されている」のであって、状態としては悪いまま。そして、そこに対しての改善案もまだ具体的には結実していない。前半の早い段階で選手を交代するわけにもいかない(それは監督の志向にもよりますが、大抵の監督はまずピッチ上だけで修復できないか試みるし、あまり早く替えては示しがつきません。首相じゃないですが、簡単にブレることを示すと、よくいえば臨機応変ですが、悪くいえば後手後手の受身采配だという認識がチーム内に出ちゃいます)。幸い、バルサには前線に天才が揃っています。たとえ守りきれなくても攻めきることは可能だが・・・と考えながら見ていると、早速メッシが独力で突破しチャンスメーク。とにかく点を取ってスコア上で突き放しさえすれば、相手もガッシリ守ってカウンター等とは考えてもいられなくなるだろう、だから当分バルサはこのペースで行くんだろうな・・・と考えていた瞬間でした。「ん?何が起こった?」というレベルの超速カウンターでバレンシアが勝ち越し。いやー、こんなに気持ち良いカウンターをバルサ相手にかましたのは、モウリーニョ時代のインテルまで遡らなければならないのではないか、というレベルです。一応この失点を分析すると、バルサの選手としても同点弾の勢いに乗って勝ち越しだ、と考えていたのか、非常に前がかりになっていて、1点目と同様ディフェンスが前目につり出されたその裏(前回はプジョル、今回はマスチェラーノ)を、やはりかなり組織的に突かれての失点だった、と言えます。くわえて、1点目も左サイドからだったから、バレンシアとしては左サイド、マスチェラーノの裏が狙い目・・・という共通意識を持っていたのかもしれません。そう考えると、ますますこのチームが怖くなってきます(そもそも、バレンシアはリーガ制覇9回の強豪です。ここ数年こそバルサやレアル・マドリーに優勝を譲ってはいるものの、常に上位に食い込んでいて、近年ではバルサ所属のビジャやマンチェスター・シティ所属のシルバ等、非常に優秀な選手を数多く輩出しています。ただ、経営状況があまり芳しくないこともあり、せっかく育った選手を各国トップチームに泣く泣く売っているために優勝とまではいきません。とはいっても、この試合を見るかぎり、今年もかなりの上位に食い込んでくるのは間違いないでしょう。いや、このカードの前にやっていたレアル・マドリーと比べても、ひょっとするとレアル・マドリーよりも上に来るかもしれない、そう思わせる「半端ない」カウンターでした)。


■後半立ち上がり、慣れ親しんだ4-3-3に戻すバルサだが・・・
バレンシアの先制点の所でも述べましたが、このフォーメーションが極度にカウンターに弱い理由としては、中盤に厚みが出た分、そこを越えられた時に後ろに残っている選手が、広く開いた3人のディフェンダーしかおらず、隙間を突かれやすいということがあります。そういった意味では、4バックはディフェンダー同士の隙間は生まれにくく、カウンター対策も敷きやすい。4バックは、サイドバックの選手の攻撃参加に大きな特徴があるフォーメーションですが、このサイドバックがオーバーラップを控え気味にして、攻撃参加は組み立てのみ、といった形にすることも可能です。これは、失点は数としては2点でしたが、やはり同様の形でピンチを作られることも多かった、前半の再三に渡るバレンシアの鋭利なカウンターに対し、バルセロナが対策を打たざるを得なくなった、ということを意味しています。これが功を奏したというべきなのか、後半立ち上がりはこれまでのバルサらしくゆったりとゲームを支配していきます。この慣れ親しんだフォーメーションでバルサはカウンター狙いのチームと数多く試合を行って倒してきていますから、そういった意味でも4-3-3に復帰させるというペップの決断は必然だったと言えるでしょう。


■後半18分、再び牙を剥く3-4-3
試合は膠着状態で、このままゆったりとバルサが崩していくのだろう、と私をふくむ多くの人が思ったことかと思います。しかし、バルサを指揮するグアルディオラだけは別でした。前半から鋭いカウンターを仕掛けるために積極的に走ってきたバレンシア選手陣の足が鈍くなってきたのを見て、なんとまた3バックに戻し、再び中盤を圧倒しながら勝ちに行くという選択を決定したのです。そして、後半18分にセンターバックでキャプテンのプジョルを替え、運動量の多いチアゴ・アルカンタラを投入。これを受け、足の止まってきた選手を替えてバルセロナに対応しようとしていたバレンシアですが、従来より中盤に厚みを増したバルセロナがこれを振り切り、3-4-3復帰14分後にビジャが抜けだして同点ゴールとなります。しかし、それでも手を緩めないバルセロナ。再三に渡り相手ゴールに詰め寄りますが、バレンシアのキーパー・グアルタの好セーブの前に阻まれ続けます。そして、何度もゴールに迫りながら、なかなか勝ち越し点を決めることができない中、そのまま試合終了。最後に一矢報いようとしたバレンシアの攻撃をかわしたバルセロナが猛烈なカウンターをしかけようとしていた時に、中盤の花形選手である10番・バネガが体を張ってチアゴを止めた、その瞬間に試合終了のホイッスルが鳴り響いたのは、何かこの試合を象徴するものがあったように思います。



■4-3-3ではなく、3-4-3に拘る理由とは
「バルサの心臓」が送ったメッセージ
この試合に限らず、2011-2012シーズンはスタートから3-4-3を貫いているペップ・バルセロナ。よくよく考えれば、バルセロナは4-3-3のままでもいいはずです。過去3年間で3回のリーグを制覇するのみならず、3年間で2回チャンピオンズリーグも制覇しているこのチームがなぜフォーメーションを替えなければならないのか?その答えを握るのは、やはり新加入のセスク・ファブレガスだろう、と私は思います。グアルディオラがまだバルセロナの選手だった頃から、彼はまだカンテラにいたセスクに対して左の写真のユニフォームを贈っています。そこにはメッセージ込められていて、内容は「この4番をつけた君をカンプ・ノウで見るまで待っている」というもの。セスクの並々ならぬ才能に期待を抱いていた現役時代のグアルディオラと、そんなグアルディオラに憧れていたセスクの間には、他の選手との間にあるそれとはまた違う深い絆があるようです。毎年のように優秀な人材を獲得するバルセロナですが、それでもフォーメーションを替えてまで彼らを使うということはありませんでした。しかし、シャビ、イニエスタ、ブスケツ、そしてセスクというこの4人は、ペップとしては外すことは出来ない、ということでしょう。入団当初はシャビもしくはイニエスタのターンオーバー要員と観られていたセスクですが、もはやペップにとって欠かすことのできない人物にまでなったようです。

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