2011年9月10日土曜日

【A代表】 日本 VS ウズベキスタン










■ドタバタしっぱなしの前半45分・・・
成果を見せる機会だったが・・・
かなり変則的な布陣でスタート。プレミア2部でプレーする阿部ですが、個人的には遠藤のバックアップ要員だと思っていたので、トップ下で先発とはかなり意外でした。しかし、何かと器用な選手であることに加え、イギリスに渡ってからプレーに随分と積極性が出てきたという話でしたから、これは意外と面白いのかも・・・と思っているとキックオフ。うむ、間違いなくトップ下で出場している・・・がしかし、全くといって機能していない。とはいっても、これは阿部ちゃんを責めることは出来ないよなーと思っていたところ、ザックもさすがにまずいと思ったのか早速のポジションチェンジ。阿部がアンカーに周り、遠藤と長谷部が0.5列前に上がる南アフリカW杯仕様(4-1-4-1)。ウズベク相手にこのフォーメーションは正直無いだろ・・・と思いつつも、まあ阿部ちゃんもこれならやり慣れてる分どうにかなるかしら、と考えてた矢先のことです。なんだかよくわからん内に失点。うーん、リプレイを見ると、フリーでシュートを打った選手にプレスを書けなければならなかったのは、おそらく阿部ちゃんですね・・・。彼の元々の持ち味は、高い技術力に裏打ちされたゲームバランサーとしての能力に加えて、類まれなる危機察知能力であって、そこを買われて南アフリカではアンカーを果たしていたのですが・・・。まあ確かに、久々の布陣を、それも練習で試したのかもわからない布陣を、ドタバタしてる中でいきなりはいじゃあやってちょうだい、じゃ連携ミスが生じるのも無理もないとも言えますが、にしても阿部ちゃん、これは悔しい試合となったでしょう。その後、割と慎重な入りだった日本ですが、香川のいる左サイドを中心に、うまく左SB駒野が絡みながら相手ゴールへと迫りますが、なかなか結果が出ずに前半終了。結局、阿部ちゃんは結局見せ場なく退くこととなりました。一応アピールできるポイントを挙げるならば、後ろにネットが張れる阿部がいたことで、遠藤・長谷部の片方が思い切りのいい攻撃参加が出来るようになったという点でしょうか。だけれど、遠藤は怪我をおしての出場だし、長谷部も低い位置から持ち上がり、仕掛けるなり鋭い縦パスを送り込むなりミドルを打つなりするから恐怖なのであり、もともとさしてトップ下適性のある選手ではなかったという点では、そこまで有効な戦術変更になったとは言えませんでした。


■とうとう耐え切れず、香川・清武システム発動
ちびっ子3人集を1.5列目に揃える後半フォメ
後半は打って変わって、トップ下には本職の香川が入り、右に香川とやたらの息の合う清武を投入。正直、試合の入りからこうすればゲーム内容は全く違ったと思うんです。ただ、トップ下香川に依存したシステムで戦い続けてしまうと、いずれ怪我から復帰し合流するであろう本田の使いどころがなくなってしまう。加えて、ザックとしてはしっかり守備からチームを作りたいと考えているようなので、自陣でのボール奪取後にしっかりとボールを収められる本田をトップ下におきたいと考えている。いわば、守から攻のスイッチングの間にボールを守っておく役割が出来る人間が高い位置にほしいと考えているのでしょう。これに対し、トップ下の香川はまた本田とは違うタイプの選手で、どちらかというとシャドーストライカーもしくはセカンドトップという感じ。ボールを受けたら素早くはたくか、もしくは仕掛けていくので、特に後者の選択肢をとった場合は、やはりその分ボールロストも多くなる。長い時間ボールを足元でもっておくことを選ぶタイプではないので、香川トップ下というのはそれはそれで相手の脅威となるのは間違いないのだが、やはりザックの構想からは少し逸れてしまう。「サイドから切り込んでいく、デル・ピエーロのような選手になれ」としきりに促すのも、おそらくはそのためでしょう。また、香川の一つまえで弾除けになってくれるドルトムントにおけるバリオスのような屈強なフォワードはやはり日本にはいない(全盛期の鈴木隆行がいればまた別かもしれませんね)。せめて、ちびっ子3人集の前で相手を引きつけ、なおかつボールを落とせるハーフナーマイクを同時に投入すべきだった、というのが持論です。まあそれは置いといても、本田を怪我を欠く現状で、短期的な結果のみを求められるならば、おそらくは入りからこのシフトでも構わなかったのかもしれませんし、そうではなくて、3年後のブラジルW杯まで見ているからこその躊躇だったのでしょう。ただ、予想以上にウズベキスタンは組織的で、また個人技も高かったので、なりふり構っていられなくなった、というのが真相なのではないでしょうか。


■ピッチに立つと味方が活性化しだす謎の触媒男、清武弘嗣
上のハイライト動画では確認しにくいですが、清武が入ってからの日本は全く別のチームと化しました。前半は香川のいる左サイドからの攻撃がメインで、たまに顔を見せたと思ったら超しょっぱいアーリークロスを放り込んでは跳ね返されるだけだった内田の動きも見違えるようによくなり、遠藤(長谷部)-内田-清武-香川あたりのうち3人ほどがトライアングルを形成し、ぐるぐると入れ替わりながらスラスラとボールを前に進めていきます(ここに吉田や今野が絡んでくると、より複雑で相手を翻弄できるようになるのですが、そういったことには連携の成熟が必要ですし、何よりもザックがセンターバックの前線への顔出しをあまり好まないタイプのようなので、これについてはひとまず置いておきましょう)。そして、ようやく後半20分にやはり右サイドの展開から内田のクロスが、FW李の頭を越してファーサイドの岡崎の飛び込みに合わせることに成功し同点に。サイドを制圧することに制圧しつつあったので、そこからクロスを合わせられるように投入の準備を進めていたハーフナーは、この得点でプレーが切れた時にようやく投入されます。彼にとっても、少し運の無い試合だったと言えるかもしれません。さて、後半立ち上がりの圧倒的なパスワークの中心にいたのは、先述のように後半から投入された清武弘嗣その人間です。上では「謎の触媒男」と評しましたが、ではなぜが彼が触媒たりえるのか、その「謎」を少し考えてみますと、ボールを出す時も、また受けるときも、必ず彼は「動きながら」動作を行います。つまり、動作の流れのなかでボールに関連しているので、次の動きへと入るのが早い、というか途切れずに次の動きに入りますので、そのため味方は清武の次の動きのイメージを共有しやすい、というのが一つ挙げられるのではないでしょうか。つまり、ボール回しのための動きの「軸」を清武は演じることが出来るのです。そして、周囲の人間はその軸に沿ってそれぞれが意思決定します。軸を中心に捉えたうえで、瞬時に関連しうるプレイヤーの動きを想定しつつ、そして各プレイヤーは「解」を選びとる。いいかえるならば、清武の「提案」に対し、周囲の人間が、自身のポジショニングや役割に応じて「解釈」を行う。そしてまた清武はその「解釈」を見て次の「提案」を行う・・・という循環が生じている、といったところでしょうか。また、清武が「提案の仕方」を示して見せることで、香川や長谷部もまた徐々に「提案」を行っていく。そうして「提案者」と「解釈者」が増殖していくという正のフィードバック現象が起きている、というわけです。


■「正着」の打ち方を覚えたアブラモフ・ウズベキスタン監督
ザックにとって、というよりほぼ殆どの日本サポーターにとって誤算だったのは、ウズベキスタンのアブラモフ監督の戦術眼がいつもより研ぎ澄まされていたことでしょう。この試合も、守備をしっかり固め、前線の選手の個人技で打開するという手堅いカウンターサッカーを展開していたアブラモフ監督。当然、後半に入ってからの日本の攻勢をただひたすら耐え続ける、ということはなく対策を行って来ます。失点の10分後には中盤の選手を本職ディフェンダーに交代。清武が入って得点もとり、イケイケドンドンになりかけてた日本代表のリズムを見事裁断することに成功します。選手変更により更に引篭もりカウンターにシフトしたウズベキスタン、さらに再三にわたって日本ゴールを脅かしていき、それに対してパス回し用のスペースが封じられがちになってしまった日本は、随分勢いを失ってしまいます。アブラモフ監督からのアクションに対し、勝ち点3を取りに来た日本はどのようなリアクションを示すのか・・・。そこで見られたのがザックの秘策である「3-4-3」でした。駒野にかわって槙野がディフェンダーの一角を勤めるべく投入されます・・・が、正直3バックの効果の程があまりわかりませんでしたし、今でも僕にとってはあまり釈然としません。いや、正確に言うと「ザッケローニの3バック」は効果がよくわからない、というべきでしょう。確かに、長友の所属するインテルの新監督であるガスペリーニも3バックを多用しますし、強力な両SBを擁するバルセロナのグアルディオラも、今シーズンの開幕戦のシステムに3バックを試していますので、3バックは世界的に流行の兆しを見せかけています(参考:ガスペリーニの戦術:3バック、3トップ)。ガスペリーニとグアルディオラの3バックに共通しているのは、「3-4-3だけでなく3-5-2や3-6-1、4-3-3とも併用しながら」「選手変更なしに」「試合の流れのなかで」「相手を翻弄するために」用いられているという点であり、ザックジャパンのように固定的なシステムだとは捉えていないわけです。特にグアルディオラなんかは、もうかなりのフォーメーション・マニアですから、試合中何度も「フォーメーション・チェンジ」を行わせて的を絞らせないわけです。それに対し、ザックジャパンの3-4-3は連携不足の感は否めず、相手だけでなく味方も導入直後は混乱してしまっていますし、そしてどうせやるなら、せめてもう5分早く始めるべきだったでしょう。というのも、80分からのスタートじゃ、たった10分しか残り時間はなく、ただでさえ慣れてないフォーメーションですから、システムを整えなおせたかな、ぐらいならまだしも、整えなおす時間すら残されていない、という可能性すらありますし、現にウズベキスタン戦ではそうだった。・・・話がずいぶん巻き戻りますが、おそらく阿部というユーティリティ性の高い選手を先発させたのは、選手変更なしでのシステムチェンジが可能になるだろう、という目論見もあったのではないかと思います。しかし、その目論見は、甘かったと言わざるを得ないでしょう。いわば、ザッケローニにとっては誤算続きの試合だった、と推測できます。


■この試合のザッケローニを評価することは、とても難しい
ここまで割とザッケローニの采配に対して批判的な文章を綴ってきたわけですが、にもかかわらず私はザッケローニに対する評価は難しいと感じています。というのも、この試合のもつコンテクストを考えると、事態は非常に複雑になってくるからです。アジアのなかでは比較的強いとされるチームを相手に、アウェーで、スタート時点からチャレンジングな采配を行ったこと。3次予選が始まったばかりの段階であり、勝ち点の取りこぼしが全く許されない、という差し迫った状況ではないということ。そしてそれらに対し前半で見切りをつけて、後半は勝負に徹し、勝ち点1を拾うことが出来たこと。3バックを公式戦で試すことができたこと。これらを鑑みると、「さすが名将」と言えなくもない、となりますが・・・。私はこれらを鑑みて、最終的に判断を下すならば、それでもやはり、「今回のザックはマズかった」といいたいと思います。それぞれの采配は、間違いではなかったものの、正解ではなかった。3バックへの移行が遅れたことは先述の通りですが、それだけでなく、ハーフナーを入れたものの、その高さを活かした先述をその後展開できていたかと問われれば、そこには疑問を禁じえない、という点もあります。また、やはり「フォーメーション・チェンジ」ということに対する考え方が少し古い、というのも露呈されました。もちろん、バルセロナのような現代型のフォーメーション・チェンジには、ユーティリティ・プレイヤーでありながら、本職以外でも高いパフォーマンスを発揮できる人材が揃っているということが条件になりますし、これは野球で言うならば、内野ユーティリティでありながら、どこの守備位置でも高い守備率を誇るですとか、スイッチヒッターでありながら両打席とも高打率を残せるなどということになりますので、容易なことではありませんが・・・。しかし、だとするならば、フォーメーション・チェンジを行いながら戦うことは果たして日本代表にとって有益なことなのか、という問いが新たに生じてきます。もちろん、オプションは多いほうがいいのですが、そのオプションのせいでピッチ上の選手が混乱するのならば、果たしてそのオプションのもつ意義とは何なのだろうか、とも思わされます。「ザッケローニイズム」をより浸透させることができなければ3-4-3はおそらく機能不全であり続けるだろうということは明らかであり、そしてそのザック自身が、選手投入などで微妙なブレを露呈している限りは、イズムの浸透も遅れてくるかと思います。

■選手採点
川島...7.0 / セービングの技術が向上したか? 
吉田...5.5 / 何度かシンプルな反転などでかわされる場面があり、冷や汗
今野...5.5 / 吉田同様、素早いカウンターに手を焼いていた印象
内田...5.5 / 前半5.0の後半6.0。後半立ち上がりはよかったが、その他ではマイナス印象。
駒野...6.0 / 後半は消えていたが、前半はよい攻撃参加。
阿部...5.0 / ある意味「戦術の犠牲者」だが、らしくない軽率なプレーが目立った。
長谷部...5.5 / やはり高い位置で仕事をする人間ではない。アタッキングサードとしては良い。
遠藤...5.5 / 怪我押しで低調なパフォーマンス。日本の心臓とはいえこれ以上下がるならば休養も。
香川...5.5 / こちらもまだパフォーマンスが上がってこない。一つの大きな壁にあたっている。
岡崎...6.5 / なんだかんだでいつも得点は取る。
李...5.5 / 岡崎と特性が被るのが辛いところか。2,3度あった好機を逃していてはいけない。

清武...6.5 / 立ち上がりの猛攻の起爆剤となるが、スペースを消されるとやはり辛いか。
マイク...5.5 / こちらも戦術の犠牲者感はいなめないが・・・。武器を明確にし、それを活かしたい。
槙野...6.0 / 短い出場時間だが、攻撃参加と守備で存在感は示せた。

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